聞き書 緒方貞子回顧録

難民問題がニュースに取り上げられることが増え、緒方さんの活動、彼女の人となりについて、もっと知りたいと思うようになりました。世界各地でおこる民族紛争は、ニュース解説を読んでもピンとこないというのが正直なところ。遠い国で起きていることながら、まったく自分に関係ないこととも思えず、もやもやとした気持ちがいつも心のすみにひかかっていました。

政治家・外交官一家に生まれ、政治学を専門とする研究者として活躍、国連にかかわるようになり、やがて国連難民高等弁務官に抜擢されるという、まさにスーパーウーマン!の経歴とのギャップにびっくりするくらい、回顧録のなかで語られるお話は気負いなく、淡々としたもの。組織の常識をもろともせず、自分が正しいと思うことをまっすぐにやりぬく大胆さには、読んでいて、気持ちがすっとします。批判を恐れず、理想を追うよりも実現可能なことを積み上げていく強さにもしびれました。

理解しきれないこと、解決できないことばかりで行き詰っても、それでも今できることはなにかを考え、行動をおこすこと。救いきれない命もたくさんあり、割り切れない思いを抱えながらも、逃げることなく活動を続けるのは生半可なことではないはず。

緒方さんが直面されてきたような場面に限らず、わたしたちの日常にも、今できることはなにかを考え、行動をおこすことが求められることがたくさんあるはず。諦めてしまったり、なげやりになっていては、大切なものも守れません。

国際社会の中での日本を考えることは、身近なコミュニティーの中での自分を考えることに似ている気がします。まずは自分の得意なことで身近なひとに貢献すること。そのためにはまず自分自身がしっかり力をつけること、学び続けることが大事。

もやもやした気持ちは解消できなかったけれど、難民問題についても、民族紛争についても、ニュースを目にしたり、耳にしたときに、自分なりに考えるヒントをたくさん得ることができました。とても読みやすい本です。

「聞き書 緒方貞子回顧録」岩波書店

 緒方 貞子(著)、野林 健(編集)、納家 政嗣(編集)